福島F1見学会報告(大河原賢一)
- risyu
- 2024年6月14日
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2024年3月15日(金)~16日(土)に福島県にて開催された2023年度第4回材料研究会に参加してまいりました。テーマは「いま福島で語らう“復興とは何か?”~科学技術と地域文化の観点から~」です。
1日目:
南相馬市にある福島ロボットテストフィールドと、東京電力福島第一原子力発電所(スタンダードコース)の見学会。
福島ロボットテストフィールド(RTF)は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤を創出する国家プロジェクトで、“福島イノベーション・コースト構想”に基づいて整備された施設である。まず本館で施設概要の説明を受けたのち、海も眺望できる屋上から、試験用プラントの高層棟をはじめ、試験用橋梁、試験用トンネル、交差点を模擬した市街地フィールド等を見渡し、各試験設備の概要について説明を受けた。あらゆる場所での災害や事故、被害の度合いを想定したロボットの開発に適した施設であると感じた。次に、多数の企業や大学、研究機関等が入居しているラボの廊下を通って管制塔に移動し、そこから無人航空機エリア、飛行テストにあたって事前申請の必要のない緩衝ネット付き飛行場を見学した。遠方には一部浸水した建物、冠水した建物を模擬した水没市街地フィールド、傾斜角度の異なる土砂を模擬した瓦礫・土砂崩落フィールドが見えた。いずれも深刻な災害が起こった際に復旧作業を行うロボットや無人重機の試験が行われるとのことであった。最後に大阪万博にも出展される予定の“空飛ぶクルマ”の前で記念撮影し、エントランスの最新のロボットに関する展示を見学して次の見学場所に向かった。
福島ロボットテストフィールドからバスで約50分程度で、東京電力廃炉資料館に到着した。ここで施設提供のバスに乗り換えて、国道6号線を北上し、東京電力福島第一原子力発電所に向かった。発電所敷地内に入り、協力企業棟の会議室にて、各号機の状況と汚染水対応、処理水放出、および燃料デブリ取り出しに向けた対応について説明があった。
個人線量計の装着や金属探知機等の個別検査を経て、施設内バスに乗り換えて多核種除去設備の入った建物や使用済の溶接式タンクなど1号機から4号機の並ぶブルーデッキへと向かった。バス内に線量計が設置されていたが、ブルーデッキ周辺では空間線量が数十µSv/hに増加した。これまでは専用バスの車窓からのみの見学であったが、今回の見学では初めて一部降車しての見学をさせていただいた。1つはブルーデッキとよばれ、2018年11月より一般服で視察できるようになった、1~4号機を視察できる高台、もう1つはグリーンデッキとよばれ、2023年6月より降車可能となった。5~6号機側と処理水希釈放出設備を視察できる高台である。福島第一原子力発電所は大熊町と双葉町の2つの町にまたがっており、ブルーは大熊町、グリーンは双葉町の色であるということであった。
まずブルーデッキで降車し、1号機から4号機のそれぞれの状況を見ながら説明を受けた。1号機周辺では作業員の方がクレーンを使って外壁工事を行っており、現時点では建屋上方は鉄骨などの瓦礫が水素爆発の起こった事故当時のままの状態で露出しているが、来年度には外壁で覆われて様子も変わることが説明された。2号機は燃料プールの使用済核燃料とデブリ取り出しの準備を行っており、3号機は外部の柱に重量を持たせたドーム型の屋根が取り付けられ、燃料取り出しが遠隔操作で行われている。4号機は最も損傷が少なく、使用済み核燃料が取り出されているとのことであった。手前に見える切断された排気塔や、そのさらに手前に見える、汚染水の増加を防ぐための-30℃の冷媒を用いた凍土壁、サブドレン、また地下水の増加を抑えるためにできる限り露出した土壌を養生して水の浸透を抑制するフェイシングについての説明があった。これらの工夫により、現在では汚染水の発生は日量90 m3に抑えられている。また原発建屋は岩盤の直上に建設することになっており、福島第2原発の海抜が第1原発の海抜より3 m高かったことが事故発生の有無を分けたことについても説明があった。見学後半は処理水放出についての見学である。多核種除去設備(ALPS)で処理された水は、パイプラインにより海側に運ばれ、800倍に希釈して放射線量を確認ののち、放出される。ALPSからの処理水は、3群に分けられたタンク(それぞれ受入、測定・確認、放出工程を担う)を通じて移送ラインをたどって希釈後に海に放出する。放出口に近いグリーンデッキに到着し、再度降車した。グリーンデッキからは右手前に取水口などの希釈設備、そして灯台のみえる湾の先端から約1 kmの地点に、地下トンネルを通じて、希釈された処理水が放出されるとのことであった。希釈用の海水と放出口の海水が混合しないように取水口と放出口を工夫していることなどについて説明があった。ALPSでは除去できないため処理水に含まれているトリチウムの年間22兆ベクレルは放出限度であり、現在4回目の放出中である。処理水を放出することで貯蔵タンクを徐々に減らし、瓦礫類等の保管場所に用いる計画についても説明があった。バスで出発時点に戻り、最後に処理水のサンプルを見ながら、処理水の性質や生体影響について説明があった。ALPSで発生するスラッジや吸着材の処理方法、トリチウムの分離方法がなぜ福島第一原発に適用できないのか等について活発な質疑がなされた。
富岡町の廃炉資料館に戻るバス内で質疑が行われ、原発敷地内のがれきの処理方法等について質疑が行われた。参加者からの質疑が活発であったため、終了予定時刻より30分ほど超過したが、担当の方はいずれの質問にも丁寧に答えて下さり、処理水や燃料デブリの現状と対応、課題についてよく理解できた。2019年の本研究会以来の福島第一原発見学であったが、状況がかなり変わっている部分と進捗が難航している部分が明確になっていることが実感でき、大変貴重な経験であった。
2日目:
シンポジウムを実施(JR福島駅西口のコラッセふくしま4階の401会議室)。対面・オンラインのハイブリッドで、3名の講演者による講演会を行った。
1)「飯館村の取り組み 明日が待ち遠しくなるようなワクワクする楽しいふるさとを目指して」
杉岡誠(飯館村村長)
農政を中心とした取り組みと復興に対する考え方などについて講演が行われた。はじめに、2011年の震災があった際の取り組みついてお話しされ、最初の避難指示が出ていない時点では支援側であったが、避難指示区域に指定されたことで突然被災地となったこと、県外を含む村外での営業再開に早期から着手し、農業の再生による村の復興が行われたことの説明があった。そして、村の特産品を中心とした農家の支援のため、農地を守る→生きがい農業→なりわい農業→新たな農業の各フェーズの設定により、段階を踏んで様々な村の特産品が復活しただけでなく、新たな特産品による村の魅力の向上を行っている取り組み事例が紹介された。また、畑の無料貸し出しや、“わくわく補助金”などにより、村外の人々にも村内での農業やイベントの開催がしやすい環境を作り、外部からの人々の受け入れを増やす取り組みも行われていることが説明された。講演の最後で印象に残ったのは、村民に対して“復興”という言葉はなるべく使わないようにしているということであった。本当の“復興”は元の状態で戻すことではなく、さらにその先の未来の姿を思い描いて進むことであると強調される杉岡氏のお話には説得力があり、飯舘村のさらなる発展に希望が持てるご講演であった。
2)「ALPS処理水の海洋放出について」
佐藤学氏(東京電力ホールディングス株式会社 福島第一廃炉推進カンパニー)
ALPS処理水の海洋放出における取り組みについて講演が行われた。はじめに、汚染水発生の原因として雨水、地下水などがあり、凍土壁やフェイシングなどにより、原子炉建屋内へ流入する水の量を低減することが求められると説明された。これまでの取り組みで、汚染水は建屋からくみ上げて「KURION」「SARRY」「ALPS」などを用いて放射性核種を段階的に除去し敷地内のタンク内に保管していたと説明があった。2023年8月の政府による決定を受けて、同23日にALPS処理水の海洋放出が開始された。2024年3月時点で4回目のALPS処理水の放出がなされている。処理水の海洋放出は、見学会で実際に確認した、測定・確認、放出のサイクルを経る。基準値を満たした処理水は、移送設備によって希釈設備に送られる。ALPS処理水は、トリチウム濃度1500 Bq/L未満かつ年間トリチウム総量22兆 Bq未満を遵守して放出することが定められている。これを達成するために、希釈設備によってALPS処理水を海水と混ぜてから海洋放出する。また、トラブル等への備えとして、移送設備の緊急遮断弁を閉じることによる緊急停止、運転員の操作による通常停止があると説明があった。ALPS処理水の放出計画として、原則トリチウム濃度の低いものから順次放出し、毎年年度末に翌年度の放出計画を策定し公表すると説明された。また、ALPS処理水の海洋放出にあたって国内外の人々に対するコミュニケーションを重視し、風評被害や損害が発生した場合の適切な賠償に関する取り組みについて紹介された。
3)「燃料デブリを可視化する -英知事業 阪大-英国共同研究の取り組み-」
牟田浩明氏(大阪大学大学院工学研究科 教授)
2つの異なる光学技術(ハイパースペクトルカメラによるイメージング(HSI)、レーザー有機ブレークダウン分光(LIBS))を用いて福島原発内部の燃料デブリを可視化する研究について講演が行われた。この研究の背景として、福島第一原子力発電所1号機内部で様々な形状、色彩の堆積物や付着物が確認されているが、それらが燃料デブリであるかどうか断定できていないという課題がある。安全・効率的な燃料デブリの取り出しや事故進展挙動解明のためには、迅速かつ簡易的な堆積物、付着物の識別が求められる。福島原発内部は空間線量が高い環境であるため、試料採取に強い制限あるなかで、分光学的手法、その場観察等を駆使した遠隔操作による評価が望ましいと説明された。この研究では、HSI、LIBS等の適用により広範囲の炉内物質の特定・可視化を目指すと説明があった。HSIは通常のカメラのRGB3色のみの分光情報の取得とは異なり、各画素の100色以上の分光情報をもとに、物質の特定や状態の違いを画像として評価することができる。AI・機械学習の技術発展により、将来的には適切な原発内部の物質の学習データによって分光画像から炉内物質を特定・可視化することが期待されると説明された。一方、LIBSはパルスレーザーによって試料表面をプラズマ化し、放出される光を分光することで元素分析を行う技術である。単体での評価領域は狭いものの、HSI分析技術と組み合わせることでLIBS実測値に基づいた炉内物質の正確な広範囲可視化技術となりうると説明された。この研究は、大阪大学とイギリスのストラスクライド大学と共同で行われている研究である。福島原発内部への実機適用イメージとして、HSIとLIBSをロボットアームで遠隔操作し、HSIによる炉内物質を迅速・俯瞰的に分別を行い、LIBSによる特定点の定量元素分析を行うことを想定していると説明があった。また、原発内部の観察のほか、取り出し後のデブリ/瓦礫等の迅速分別にも貢献が期待できると説明された。
見学、講演会を通して、時間を大幅超過しても時間が足りないほど大変活発な質疑が行われ、参加者の関心の高さが感じられた。また見学会、講演会を通して、地震と津波で大きな影響を受けた福島の方々やそれにかかわる県外の方が、自治体、企業、研究機関等のそれぞれの立場から、福島の復興、そしてさらなる前進のために現状に対して真摯に向き合い、さまざまな工夫をされている姿に心を打たれ、当研究会としても、磁気力制御の観点から何らかの形で貢献したいという思いを新たにした。
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